この記事はカナダの薬局内トラベルクリニックでご活躍されている佐藤厚がベトナムの医療事情に関して執筆されたものです。当院の中島医師が調査に協力させていただきました。
※こちらの記事は当院の中島医師が調査に協力したものを出版元・著者より承諾を得た上、転記いたしました。
出典:『DIオンライン』 2018年2月27日掲載
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/mainichi/201802/554973.html 日経BP社の許可を得て掲載。無断転載・複製を禁じます。
著者 佐藤厚 薬剤師のご紹介
カナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバー郊外で薬局薬剤師として勤務。2014年国際旅行医学認定[Certificate in Travel Health]を取得し、薬局内トラベルクリニックを担当。2016年、認定糖尿病指導士[Certified Diabetes Educator]、禁煙指導士[Certified Tobacco Educator]。星薬科大学卒業、同大大学院修士課程修了。国際渡航医学会、日本渡航医学会会員。
私が働いている、カナダの薬局内トラベルクリニックでは、2014年以来、目的地と旅行の行程に合わせて渡航前の健康アドバイスと予防接種を行っています。
そこに訪れるクライアントの中で、最近顕著に増えている渡航先はどこでしょう。
答えは「ベトナム」です。日本でも手頃な価格の観光ツアーが出回っており、仕事で出張や駐在する人も多いので、日本人にとっても比較的身近な国といえます。
そこで、今回から3回にわたって、ベトナムに渡航する際の健康情報や現地の薬局事情を、「トラベルクリニックの薬剤師」的視点でお伝えします。
ワクチン、交通事故、大気汚染……
クライアントにアドバイスする際、インターネットは欠かせません。私は、日ごろの業務で、Shoreland社の有料オンライン渡航医学情報サービス「Travax」(英語)を利用して、各国の健康情報を収集しています。
渡航先で流行している感染症や、接種しておくべきワクチンだけでなく、医療機関のリストや文化の違いに至るまで、渡航先に関する様々な情報を一括して集めることができます。
このほか、米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)も、類似のサービスを無料で提供していて、便利です。
日本語で渡航に関する健康情報を収集したい場合は、厚生労働省検疫所FORTHや、外務省による海外安全対策「世界の医療事情」(国別リスト)が頼りになります。
実際に、「世界の医療事情」のベトナム版を見てみると、「デング熱、日本脳炎、マラリア、食中毒、細菌性赤痢、アメーバ赤痢、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、狂犬病、結核といった、日本より感染のリスクが高い病気が数多く存在する」といった内容が書かれています。
ここまで説明しただけで、「これはトンデモナイ国への旅行を計画してしまった!」という本音がクライアントから出ることもまれではありません。
しかし、これらの感染症を防ぐためにトラベルクリニックに来ているわけですから、渡航先での基本的な注意事項を伝え、また感染症の最も重要な予防手段であるワクチン接種を行います。
ベトナムに行く際、ワクチン接種以外で基本的かつ強調すべき注意事項は、「交通事故」と「大気汚染」です。ベトナムの交通量が多い地域では、歩行者のための横断歩道や信号は、例え設置されていても、ないも同然です。
街中で横断歩道を渡り始めたら、横見をせずに、突き進むことは鉄則で、立ち止まってしまうと、むしろ事故になります。道路を占領するおびただしい数のオートバイの中には、1台に家族3、4人で乗っていることもあり、これには度肝を抜かれます。
また、交通量の多い都市部や、工場が密集した地域では、大気汚染が深刻な状態となっており、呼吸器疾患の既往歴がある場合には、マスクや吸入薬などを余分に持参することが勧められます。もちろん、オートバイに乗っている現地の人は、ほぼ全員がマスクを装着しています。
ところで、私はベトナムのホーチミンシティーで、ISTMの知識認定試験を受験しました。(関連記事:「ベトナム旅行医学の認定試験に挑戦してみた」)。
1週間弱の短期滞在で、試験が終わるまでは徹底的に“安全対策”をし、無事に半日がかりの試験を終えることができましたが、カナダに戻った後でしっかりとウイルス性の大腸炎にかかってしまいました……。
滞在最終日に市内を観光した際、日中にとても喉が乾いて、カフェでアイスコーヒー(←最もよくある病原体の運び屋である「氷」入り)を飲んだが為の出来事です。幸いにも、肝心の試験には合格したので、今ではちょっとした笑い話ですが、非常に良い教訓となりました。
次回は、ベトナムに行く前に知っておきたい感染症とワクチンについて解説します。
今回の記事を執筆するに当たり、現地の写真をご提供いただきました中島敏彦先生(Raffles Medical Group総合診療医 / Clover Plus医療産業アドバイザー)に、心より感謝申し上げます。