薬剤師の渡航医学アドバイス(3)ベトナムで驚く3つの違い

ベトナムに旅行する人への渡航医学(トコメド)アドバイスの最終回となりました。今回は、現地の薬局と薬などについて、取り上げます。

※こちらの記事は当院の中島医師が調査に協力したものを出版元・著者より承諾を得た上、転記いたしました。
出典:『DIオンライン』 2018年4月27日掲載
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/mainichi/201804/555798.html
日経BP社の許可を得て掲載。無断転載・複製を禁じます。

ベトナムに旅行する人への渡航医学(トコメド)アドバイスの最終回となりました。今回は、現地の薬局と薬などについて、取り上げます。

海外で、思いがけず体調を崩してしまった──。そんな時に、誰でもすぐにアクセスできる場所といえば、「薬局」や「ドラッグストア」です。しかし、時には日本との大きな違いにビックリすることもあり、ベトナムも例外ではありません。

違い1 処方箋薬だって、OTC薬!


先進国で一般的に処方箋薬として取り扱われている薬が、ベトナムでは処方箋なしで購入できます。薬剤師に処方権があるという見方もできますが、医学的に必要な処置や検査などが行われないというリスクも、当然あります。

ただ、慢性疾患の治療薬を購入する際には、便利かもしれません。なお、このような規制の違いは、ベトナム以外の多くの新興国でも見られることを、覚えておくとよいでしょう。

違い2 薬剤師国家試験がない?!


日本の処方箋薬に相当する薬を、OTC薬として払い出すという“重責”を負うベトナムの薬剤師ですが、この国には薬剤師国家試験がありません。5年制の薬学教育を受けて学位(Bachelor of Pharmacy: BPharm)を取得することで、薬剤師として認められます。 (関連資料: Pharmacy Education in Vietnam )。

BPharmに至るには、Elementary Diploma in Pharmacy(EDPharm)、Secondary Diploma in Pharmacy(SDPharm)、College Diploma in Pharmacy(CDPharm) と、幾つもの異なるレベルの資格が設置されており、5年制のBPharmプログラムに入らなくても、段階を経てBPharmを得ることができます。また、BPharm取得以前にも、これらの資格を肩書きに、薬局スタッフとして働くことができます。

違い3 解熱鎮痛薬には要注意!


ベトナムで解熱鎮痛薬を服用する際には特に注意が必要です。

日本でも、2014年に東京都を中心に100例以上が報告されたデング熱ですが、ベトナムでの発生規模ははるかに大きく、2017年の1年間だけで32件の死亡を含む18万4741人の患者数が報告されています。(関連資料: WHO Western Pacific Region Update on the Dengue situation in the Western Pacific Region)。

媒介蚊であるネッタイシマカは、都市環境に適応して生息しています。デング熱の症状は、媒介蚊に刺された後、4~10日の潜伏期を経て発現し、通常2~7日間持続します。

40℃以上の高熱、激しい頭痛、眼の奥の痛み、筋痛と関節痛、悪心・嘔吐、リンパ節の腫脹、発疹のうち、2つ以上の症状がある場合に感染を疑います。またデング熱を発症した1%程度が、出血傾向を伴う「デング出血熱」を発症し、適切な治療が行われないと死に至ります。

現在のところ、デング熱に対しては特異的な治療法はなく、解熱鎮痛薬や補液などの対症療法が基本です。

サリチル酸系薬や非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)は、出血傾向やアシドーシスを助長する可能性があり、禁忌とされています。 従って、熱や痛みがあるからといって、日本から持参したNSAIDsを使用したり、現地でNSAIDsを購入して服用したりするのは非常に危険です。解熱鎮痛薬としては、アセトアミノフェンが推奨されています。

渡航先で何らかの病気になるのは、珍しいことではありません。渡航前に相談に乗ったクライアントが海外に行った後も、トコメドアドバイザーがメールなどの通信手段で、クライアントの健康状態をフォローしたり、質問に答えたりできると、アドバイザーの存在価値が上がります。

しかし、薬剤師が1人だけで論文などを読んで知識を得ていこうとするのには、限界があります。

日本渡航医学会(JSTH)や、国際渡航医学会(ISTM)のメーリングリストに登録すると、世界各地の医師、薬剤師、看護師に、色々な質問をすることができます。やはり、現地の医師や薬剤師はその土地の医療に精通していますし、特定の領域を専門分野として研究している先生に質問すると、とてもクリアな回答が得られるので、非常に勉強になります。

医療関係者が、職種や国境を越えて情報交換・勉強できるのも、トコメドの醍醐味です。今回の記事を執筆するに当たり、ベトナム現地の情報を提供していただいた中島俊彦先生は、ベトナムのホーチミンシティー在住で、現地の病院に勤務する日本人の医師です。実は一度もお会いしたことはありませんが、カナダに住む私からの度重なるメールに、毎回親切に返信してくださいました。

また、このようなつながりができると、渡航先で「どこの病院へ行けば日本語が通じますか?」といった質問にも、具体的に答えられるようになります。

本シリーズの執筆に際し、多大にご協力いただきました中島敏彦先生(Raffles Medical Group総合診療医/Clover Plus医療産業アドバイザー)に、改めて厚く御礼申し上げます。

(佐藤厚=カナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバー郊外で薬局薬剤師として勤務。2014年国際旅行医学認定[Certificate in Travel Health]を取得し、薬局内トラベルクリニックを担当。2016年、認定糖尿病指導士[Certified Diabetes Educa-tor]、禁煙指導士[Certified Tobacco Educator]。星薬科大学卒業、同大大学院修士課程修了。国際渡航医学会、日本渡航医学会会員)

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