薬剤師の渡航医学アドバイス(2)ベトナムに行く人に提案すべき予防接種は?

この記事はカナダの薬局内トラベルクリニックでご活躍されている佐藤厚がベトナムの医療事情に関して執筆されたものです。当院の中島医師が調査に協力させていただきました。

※こちらの記事は当院の中島医師が調査に協力したものを出版元・著者より承諾を得た上、転記いたしました。
出典:『DIオンライン』 2018年3月26日掲載
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/mainichi/201802/554973.html  日経BP社の許可を得て掲載。無断転載・複製を禁じます。

著者 佐藤厚 薬剤師のご紹介

カナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバー郊外で薬局薬剤師として勤務。2014年国際旅行医学認定[Certificate in Travel Health]を取得し、薬局内トラベルクリニックを担当。2016年、認定糖尿病指導士[Certified Diabetes Educator]、禁煙指導士[Certified Tobacco Educator]。星薬科大学卒業、同大大学院修士課程修了。国際渡航医学会、日本渡航医学会会員。

前回に引き続き今回も、ベトナムに旅行する人に対する渡航医学のアドバイスについて書きます。ちなみに渡航医学は、少し堅苦しい言葉なので、私は「トコメド」という略語を使ってみてはどうかと思っていますが、いかがでしょうか。

今回のテーマは感染症です。ベトナムをはじめとする新興国では、A型肝炎と腸チフスが蔓延しており、国際基準のトコメド情報サイト「米国疾病予防管理センター」(Centers for Disease Control and Prevention; CDC)は、ベトナムへの渡航者に予防接種を推奨しています。

A型肝炎(Hepatitis A)


日本では当たり前のように上水道が整備されていますが、ベトナムをはじめとする東南アジア、中南米、中東やアフリカの国々は、この限りではありません。衛生状態の悪い国や地域では、ヒトの糞便で汚染された食物や水を媒介して感染するリスクが非常に高い感染症です。

A型肝炎ウイルスに感染すると、2~7週間の潜伏期間の後に、急な発熱、全身のだるさ、食欲不振、吐き気や嘔吐が見られ、数日後には黄疸が表れます。特別な治療法はなく、対症療法が基本となります。

通常、A型肝炎の感染リスクは衛生環境の改善とともに減少していくものですが、近年、男性の同性愛者(Men who have sex with men;MSM)や両性愛者(バイセクシュアル)の間における集団発生が注視されています。MSMの間では、肛門やその周辺と接触した部位が、口に直接入るような行為が多く行われることで感染します。最近、日本でも東京などの都市部で感染者数が増加しています。

A型肝炎の予防方法は、ワクチンの接種を受けることです。日本ではエイムゲン、北米ではHavrix、Avaxim(いずれも不活化ワクチン)が販売されています。

腸チフス (Typhoid fever)


A型肝炎と同様に、腸チフスも、ヒトの糞便で汚染された食物や水を媒介して感染します。腸チフスはチフス菌(Salmonella enterica subsp. entericaserovar Typhi; S.Typhi)(英語ではサルモネラ・タイフィと発音)による感染症で、名前の中にサルモネラとありますが、これは一般的に食中毒の原因となるサルモネラ感染症とは区別されます。

通常、7〜14日(時にはそれ以上)の潜伏期間を経て、発熱、頭痛、食欲不振、全身倦怠感などの症状を呈します。適切に診断・治療されない場合には、腸出血とそれに続く腸穿孔といった合併症を起こすこともあります。

以前は、腸チフスの治療には主にニューキノロン系抗菌薬が使用されていましたが、耐性菌の出現により、最近では第3世代セファロスポリン系抗菌薬や、アジスロマイシンが使われています。

世界的には弱毒生ワクチン(Vivotif)と不活化ワクチン(Typhim)が実用化され、カナダでも日常的にこれらの接種を行なっています。一方、日本ではこれらのワクチンが認可されていません。従って、日本で海外渡航者に対するトラベルクリニックの業務を行う医療機関では、これらのワクチンを輸入して使用しているのが現状です。渡航者は、輸入ワクチンを取り扱う限られた医療機関を探すか、または現地で予防接種を受けることになります。

トコメドに携わる医療従事者としては、「世界では1年間に腸チフスは2690万人、パラチフスは540万人が罹患していると推定されており、現在でも衛生水準の高くない開発途上国で蔓延している。特に南アジア、東南アジアでの罹患率は高く、また中南米、アフリカでも発生がみられる」ということは知っておく必要があります(参考文献:国立感染症研究所「腸チフス・パラチフスとは」)。

なお、余談ですが、私はトコメドに関わる身でありながら、旅行先で消化器系の疾患を患いやすい傾向があります。数年前に家族で旅行したメキシコのカンクンで罹ったのは、まれな型の「パラチフス」でした。今回紹介した腸チフスのワクチンは、パラチフスには効果はありません。

今回も、現地の写真を快くご提供いただきました中島敏彦先生(Raffles Medical Group総合診療医 / Clover Plus医療産業アドバイザー)に、心より感謝申し上げます。(続く)

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